彼(沢木)は続けた。
「朝六時から七時の間に起きる。どんなに疲れていようとも。そして一時間から二時間、TVを一緒に見たり・・・・・・九時までの間は娘と共にいる。娘はもう三歳になった。七月が彼女の誕生日なんだ」
僕(新井)は頷くばかりだった。
「夜、もしその時家にいれば、眠る時は彼女におはなしを聞かせてあげる。娘がいう、『きょうは、〜のおはなしをして』。その時僕は即興でおはなしを考える。意外なストーリー・テラーとしての自分を発見する。赤い長靴のおはなしは三部作になる。そしてきまって娘は眠くなると、『桃太郎のおはなしをして』っていう。それが彼女のもっとも安心するおはなしなんだ。ドンブラコッコ、ドンブラッコ、その音節がとても心地良く響くものらしい・・・・・・」
『パリ・テキサス』のこんな一節がある。トラヴィスと弟ウォルトの会話だ。
トラヴィス「どのくらい居なかった?教えてくれ」
ウォルト「四年だ」
トラヴィス「四年が長い間か?」
ウォルト「ああ、ちっちゃな男にとってはな。人生の半分だよ」
トラヴィス「人生の半分か」